今、子どもの育ちのあらゆる分野において、愛着修復支援に取り組むことが求められています。教育の最前線にいる、我々教育カウンセラーにとっても愛着修復支援は必須の課題です。広報紙を通じて、愛着の問題について相互に分かち合い、学ぶ機会をもちたいとの願いから、昨年より連載企画を設けています。
「チャーミーのおばあちゃん」
Kids First カウンセリング
中本 久美
チャーミーは今日、学校で嫌なことがありました。クラスの子に言われた言葉に悲しい気持ちになって家に帰っていきました。家に帰ると、
「ただいま」
と嫌な気持ちのまま言いました。その時、お母さんが
「おかえり、チャーミー、今日ママ忙しいから宿題したらちゃんと習い事に行きなさい
よ」
と言いましたが、チャーミーは返事をしませんでした。出来なかったのです。ランドセルを下して、宿題をしようと用意し始めると、おばあちゃんが
「チャーミーおかえりよ、えらかったのう、暑いのに学校頑張ったの」
と言ってくれました。チャーミーはおばあちゃんの膝の上に座りました。しわしわのおばあちゃんの手がチャーミーを優しく撫ぜながら
「チャーミーはほんに えらいのう。いっぱい頑張ってるのう、こんな可愛い子はおば
あちゃん、かんご(籠)いっぱい欲しいよう」
と言いました。チャーミーは何だか、ふわぁとあったかいおくるみに包まれました。おばあちゃんのしわしわの手が、おばあちゃんの膝がとっても心地よく感じました。チャーミーの悲しかった気持ちは何処かに行ってしまいました。
チャーミーは5人姉妹です。お家はお店を経営しているからお父さんもお母さんも毎日とても忙しそうです。その上、妹たちの世話でお母さんが忙しいことが分かるから、チャーミーはお母さんに甘えることはしませんでした。けれど、チャーミーにはおばあちゃんがいました。おばあちゃんと一緒にいるとチャーミーはいつもほっとしました。チャーミーが大人になって仕事から夜遅く帰って来た時、おばあちゃんが
「チャーミー遅くまでご苦労さん、おばあちゃんの前においで」
と言い、チャーミーが前に座るとおばあちゃんはチャーミーの背中をマッサージするようにしわしわの手で撫ぜながら、
「チャーミーはえらいのう、毎日一生懸命仕事にいてきて、ほんまにええ子やのう」
と褒めてくれました。
あれから数十年が経ちました。今、チャーミーはスクールカウンセラーをしています。沢山の子どもたちに出会ってきました。あの時、おばあちゃんがくれた愛情が大人になってから安全安心基地だったことをしみじみと感じています。愛情の器も自分らしく造ってもらったことをおばあちゃんが教えてくれました。
昨今、子どもや青年が関わる問題や事件が報道されることが多くなりました。何か嫌なことがあった時は誰かに言うようにとよく言われていますが、「誰かに言える器」が育っているかどうかが大事なことだと思います。また、誰かに言わなくてもチャーミーの子どもの時の様に自分の心の中で咀嚼できるようになる力が育つ基地が必要なのです。
愛着修復支援は養育者でなくても、いつでも誰でもどこでも出来ると人間の生涯支援を専門とされる米澤先生が著書「愛情の器」にて語られています。私たち教育カウンセラーが安全安心基地を学校や色んな場所に造ることができるように探求し続けていきたいと思います。大きなことは出来なくても今できること「チャーミーのおばあちゃんのしわしわの手」の様な支援を目指しています。
(広報部より)
今後も、この連載企画を通じ、愛着について考えてまいりたいと思います。会員の皆
様のご寄稿、是非宜しくお願い申し上げます。